「孤独のグルメ」実践記――新丸子〔三ちゃん食堂〕でフキノトウ天ぷら・葱ぬた・ワンタン

東急東横線の新丸子駅近くに〔三ちゃん食堂〕というブログ子向きの店があることを知り、くさくさするこの日頃のうっぷん晴らしに、義務的おさんどん仕事を早めに切り上げて出かけてみた。

はたして、ピタリ、好みの店だった。

頃は午後2時20分。昼下がりのガランとした、席に余裕がある店内を期待していた。そこで腹にたまらない、気の利いた、しかし普通の肴で、少し酒を飲みたい。できれば心の羽を伸ばせれば、と。

――重厚なタイル張りの店構えにはちょっと不釣り合いな、町のラーメン屋風「中華料理」のノレン。くぐって戸を開けると中は広い。テーブルが3列。それぞれ対面に席が連なって奥に延びている。ただの中華料理店の構えではない

正面のカウンター席の横、調理場への窓口にはお姐さんが3人、思い思いの格好で立っていた。いい。注文がすぐに通りそう。この身は長年飲み屋に通いながら、酒や肴の注文を入れるのが苦手なのだ。

数人いた客は皆、中心から右に座っている。しぜん、誰もいなくてテレビの見える左側の列の中ほどに席をとった。つむじ曲がり。5人が2コマ右に進むなら、こちらは1人で10コマ、左に行こうとする。それでいつも損をする。

さて献立。ノレンのとおり、主とするのは町の中華料理店の品々のようだ。プラスチックの板にこまごまと書いてある。ラーメン、ワンタンが400円。アリガタイではないか。その下にずらりと垂れ下がる短冊の群れが頼もしい。カキフライ、カレイ煮付け、コロッケ、メンチカツ、ハムエッグ、煮込み……。食堂! そしてこの時間に開いている。中華料理店なら、酒が飲める。昼から酒が飲める!

姐さんがお茶を持ってきたので、目の前に札が貼られていた「純ハイ」400円を取り急ぎ頼んだ。宝焼酎「純」の炭酸割りなら問題はない。ただ、あとになって周りを見ると、トリスのハイボールは350円だったのが、少し悔やまれた。「いや、純は美味いからそれでいいのだ」と己をなだめる。

腹具合と懐具合から、さいごは「エイ、ヤ」でフキノトウの天ぷらを注文した。悪くない。この時間、この場で、この歳のこの身にしては、妥当な選択だ。うらぶれて、しかし心穏やかで、欲無く、静かに飲むにあたっての肴として。

天ぷらはていねいに揚げられていて、添えられた塩の量も適当で(――添え塩があまりに多く盛られるのは、もったいなくてイヤなのだ)、上品な香りが立って、結構なものだった。ただ、「上品」というのはクセ者で、それはそれで結構なのだが、野趣を味わいたい向きには、とうぜんながらもの足りない。

1杯の純ハイは、あっというまに空になった。といって、ボトル2000円を頼んでは、ちと持て余す。

そこで、フキノトウのほろ苦さつながりで、瓶ビールを頼む。すぐに出てきたキリンラガー大瓶(中瓶なんてアッチ行け!)は程よく冷えていて、グラスも瞬く間に霜がついた。ここは、上質の飲み屋なことを改めて知る。同時に注文したのが、先刻目にした「ネギぬた」。

テレビでは選抜の甲子園。仙台育英と早稲田実業が緊迫した試合を展開しているが、さして気にもしないで眺めている。「涙を浮かべながら目にする甲子園」は、この身から遠く隔たっているようだ。

ふと、テレビの下に貼られた色紙に目がとまる。「松重豊『孤独のグルメ』2012.9.5」。そうか、彼らに紹介されたのか、この店。さもありなん。松重さんが中華丼か厚焼き玉子をうまそうに頬張る姿が髣髴とする。旧友篠崎君がこの番組を薦めてくれたように、彼はいつもうまそうに、ひたすら物を食う。同時に、自分も今、グルメではないが孤独のなかで、静かな食欲をもって物を食っていることを重ね合わせて感じていた。ひとときの幸せ。

まもなく運ばれてきた葱のぬたは、ともに和えられたワカメも新物なのか香り高くて上質で、酢味噌も辛子が程良く効いていて結構なものだった。

――こんど自分でも作ってみよう。ときに、茹でたワケギは、できれば、水で冷やして水っぽくしたくないのだが、そのためにはどの状態で湯から上げて、余熱で火を通せばよいのだろう、……うちわで冷ませばよいのか――などと、とりとめもない考えとも思いともつかぬことが頭に漂う。

最後にはワンタンを頼むことにした。好きなのだ、ワンタンが。

出てきた姿は立派なものだった。とても400円の代物とは見えない。深めの丼の色濃いスープの下にたっぷり沈んでいそうな気配のワンタン。具はラーメンのそれと同じく、チャーシウ、メンマ、ナルト巻。ホウレン草、海苔、刻みネギ。

熱いスープは、はじめ少し醤油の気を強く感じたが、すぐに慣れた。ワンタンの衣が含む水分とワンタンの肉のスープが、醤油ダレとうまく馴染んだのだろう。計算が尽くされている。

あとは肉がたっぷり“カンロ飴”ほどの大きさの、10コかそれ以上もあるワンタンを食い進むだけ。「食べきれるだろうか」と、途中で心配になるほどの充実。

メンマは味わい強く、チャーシウは脂身と赤身がハッキリと分かれた部位ながら、口にすると全体がとろりとトロけあう絶妙のものだった。

締めて1830円。緊縮財政の友。




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