喰欲ドラマ「孤独のグルメ」第5話:親子丼と焼うどん、第6話:ロースにんにく焼き

渋谷区恵比寿で老舗の印章店を営んでいる友人から、その番組を観ることを勧められていたが、深夜の放送だったので観そびれているうちに、昨年暮れに最終回を迎えてしまった、テレビ東京の「孤独のグルメ」が、BSジャパンにやって来た。聞けば長女もファンだったという。いかにも美味そうに飯を食う、その主人公の食い方が魅力的なのだそうだ。

“酒の肴”や“高級料理”ではない、街の“食堂”が行き先である。食欲が求め、おもむくところに素直にしたがって、食い物を食う。純粋に、食う。

どんなものかと第5話「杉並区永福の親子丼と焼うどん」と「第6話「中野区鷺ノ宮のロースにんにく焼き」を観てみた。その題からしていかにも「腹が減ったから食う」ものではないか。

まず、近頃にはないフィルム調の画質に「オッ」と感じ、続いて、深刻なドラマでしか見たことがない松重豊の姿に、すこし場違いな思いがして、職場や顧客との場面、行き合う人との何やら深い会話が出てきたのに、これが「グルメ番組」か、観ようとしている番組なのかと、何度もチャンネルと番組表を確かめてみたほどだった。

違和感は続く。ドラマ仕立てなのだ、少なくとも前半は、仕事がらみの。

顧客先に行く途中に聞いた女性の話――馬を水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできないって言うじゃない……。友人に、似合うと思う服を買わせられなかったと高笑いしながら、街角にぼんやり佇んでいる主人公のわきを通って行った。

また、顧客の話。主人公は西洋雑貨の取り次ぎ販売をしているのだが――ヘアサロンを改装するので、玄関先に置物がほしいと依頼され、「お客様の髪のケアはできても、疲れている心のケアまではできないの」と聞かされる。

さらにまた、久方ぶりに会った友人は、以前はいかにもゴツい男だったのが、女装していてそれがよく似合っている。「ここ2、3年こういう格好しているの。人を愛することはできても子供は産めないわ。ちょっと背中を貸して」と、顔をうずめられる。

この第6話は「〇〇はできても、✕✕はできない」という、「ニンゲンの限界」の悲哀が主題になっている。

第5話は「ニンゲン、焦っちゃ、出来るものもできない。自分の思うとおりに事が運ぶとはかぎらない」という訓えが底流になっていて、顧客との話がこじれたり、友人との約束がキャンセルになり、行き当たった釣堀では餌を取られっぱなしで、それを「焦っちゃいけねえ」と言った相客の釣果はと問うと、「きょうはボウズだった」と応えるのだった。釣りは魚を「ひっかける」んじゃねえんだ、と教えてくれた彼が。

さて肝心の食う場面である。上のような意味ありげな日々のやり取りの後に、ガラリと趣が変わって、食事という崇高な作業がクライマックスに来るという構成が、常のグルメ番組にはないところ。

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ここもまだドラマ仕立てのつくりで、店のありさまが語られ、出される料理の作られ方、出来上がった姿が、味わいが、巧みに表現される。

日々出入りする客の好みを聞くうちに献立が増えてしまったトンカツ屋では、馬刺しや肉豆腐、こまい、エリンギの肉巻きなど、脈絡のない献立の札が並んでいる。また、ミックスフライに付け合わせられているマカロニサラダのやさしい味わいがしみじみと松重から語られる。

親子丼と焼うどんが同時に出てきたので、普通ならご飯ものから行くところ、焼うどんの湯気にひかれてそちらから行って目を輝かせ、つづいて親子丼の玉子の甘さに微笑み、たくあんを愛で、味噌汁をすする。

いつも沈重かつ悲痛な面持ちをした松重豊が、食べ物を口に含んで、「ン…」と気づき、「うまい」と進み、あとは、欲望の赴くまま無心に食いつづける、演技かどうかわからないその姿が見事だ。人気番組「酒場放浪記」の押しつけがましさ、ケレン味には堪えられないが、松重の食欲に向かう真率さには同感し、食うことの喜びを共にできる思いがする。

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松重が店を出て、ひとしきりドラマが終わり、エンドロールが出た後、唐突に原作者が現れて、ドキュメント風に店の取材をし、劇中とは違った献立を頼んで楽しんだり、店の主人と話をしたりすることにより、店を現実の場面に引き寄せてくれる――という凝った構成になっていて、見飽きさせない。

それにしても、鷺ノ宮の豚ロースにんにく焼きが多めのタレとともに煮上げられる画面は迫力あふれ、自分で作って食いたくなった。主人の言うには、ニンニクの匂いが強いので翌日に残ることもあるとか。なに、独り住まいのこの身、かまうことはない。




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