京都市役所脇〔呑津吉〕――呑み屋の寂び

真昼間から開いている居酒屋が、京都市役所と道を隔てた左側の一隅にあった。入り口にある品書きを見ると、ごく普通の惣菜が安価に食べられる。

すでに昼時を過ぎていた。喉が渇いていた。

二十品ほどの手軽な肴が三百円。青菜と油揚の煮物、竹輪揚げ、いかの塩辛、もずく……。各種串揚げ一本八十円。食事もできる。玉子かけご飯などが品書きに載っていた。これは魅力的。軽く飲んで、ご飯を食べられる。昼の定食もあって、この日はチキンカツ。

酒が生活にとけこんでいる。こんな店がありがたい。休日昼の一酌。京都の人が羨ましい。明るいうちから酒をのませる店があるというのは、その地域の文化の高さを表していると本気で思っている。それが大げさならば、そこに行き交う人の心のゆとりと言おうか。東京浅草の〔神谷バー〕然り、京浜川崎の〔養老乃瀧〕しかり。また大阪阿倍野の〔明治屋〕の格式と和らぎ。明るいうちから自分の内面を覗き、そんな自分は人々の間でしかありえないのだと、いつものように思い至ること。そうと知りながら独り黙って酒をすすり、味わい、己の酔い具合を感じる。

注文した冷奴は「すくい豆腐」のような様で、細長くて深さのある器に盛られてきた。豆腐が普通そうであるような立方体ではないのだ。漆塗りの小さな匙ですくって口に運ぶと、とろり、ネットリとした味わいで、豆腐のようには思えなかった。まるで大豆のクリーム。ふだんは注文以外に口を利かぬ小子が、思わず店主に「こんな豆腐を食べたのは初めて」と言ってしまった。

画像


少し気張って鰊と茄子の炊き合わせを頼んだ。六百五十円。茄子の舌ざわりはとろけるように滑らかで、ちょうど良い味。角のない普通の味わい。ひんやり冷たい。鰊は腰の強い味で、じゅうぶんに自分を主張してしっかりした噛みごたえがある。二つの素材を取り合わせる妙を味わったことだ。

その店〔呑津吉(どんつき?)〕は、惜しむらくまだ真新しい。蛍光灯の灯りが煌々としていて、どこか気が落ち着かない。あと二十年ほど経て店内に寂び(サビ)がついたら恰好の呑み屋になっているだろう。それまで長く続いてくれることを願うばかり。


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック