フラリと浅草『駒形どぜう』ーー老舗はイイねぇ、このあとも二、三軒……

A さんへ
こんばんは。夕方酩酊して帰宅、乗換駅の駅弁売店で買ったいつもの10個300円のワケあり稲荷寿司と今朝漬けこんだ大根と人参の糠漬けを娘と分けて食べたあとひと寝して、さっきようやく醒めたところです。

その売店のおばちゃんが出来た方で、「おいしくお召し上がりください」と言い添えて包みを渡してくれました。それだけで売り値以上の価値があると思われませんか? いつか稲荷寿司を特売する訳などについて少しお話ししたときの物腰や内容からして、立派な料理屋の仲居さんか女将さんをされていたのではないかと想像するのですが、突飛でしょうか。

特売稲荷は午後の半ばに入ります。ハネだし品、不良品ですから。遠目にこれを見つけるとかならず寄ってしまいます。いつものバーに行くときは皆で分けて頂くし、ひとりの家に持ち帰れば、その晩と翌日に二度楽しめます。

小鯵の押し寿司で有名な『大船軒』という駅弁屋です。鯵寿司はたぶんもう千円ほどもするので、もうわたしには手が出ません。でも、味はしっかりと覚えているから、いいのです。

さて、前置きが延々と続いてしまいました。今日は年に一度の健康診断が都心であったものです。そのまま戻って来るのでは電車代がもったいないので、いつも少し寄り道をする。健診を終え、さて今日はどちらに行こうか、すぐ近所の元職場を訪ねるのも野暮な振る舞いだし、旧知の人間も少ない。これから都内の閑な友人に電話しても煙たがられよう。と、思いついたのが浅草でした。電車でまっすぐ一本なので。

昼前から『駒形どぜう』の泥鰌丸鍋一枚と酒二合を堪能しておりました。

浅草橋から歩いて雷門に向かい、駒形の店の前を通ると暖簾が出ている。常のようにホッピー通りに行くかこの店にするか、しばらく迷った末に入りました。なぜ躊躇ったかといえば、このわたくしがおいそれと気軽に入れるお値段ではないのでして…。

とはいえ、料理の質の高さと給仕さんの気遣いが細やかなこと、また集まる客もみな「人品卑しからぬ」方々(一言でいうと「旧式の人間」!笑)で、とても居心地がよいのです。いやな思いをせずに酒の時間を過ごせる。

加えて、炭火に掛かる浅い鉄鍋で自分の好みの味加減、煮え加減に泥鰌と葱を煮る作業は、何にも増して愉しいものなのです。これはA さんにはお分かりにならないでしょうね。その作り方や食べ方おお話しすると切りがないので、今度お会いする時に回します。

ほんの少しだけ申し上げれば、料理の要素は限られています。調節不能の炭火コンロにのせた鉄鍋、薄めの割り下、あらかじめ酒で煮られた泥鰌、小口切りの葱、あとは薬味の山椒と七味唐辛子ーーこれだけなのです。しかし、それぞれの組み合わせに「時間」の要素を掛け合わせることにより、出来上がるものには無限の幅を持たせられるのです。

酒器がまた極めて洗練されています。一合ちょうどが入る銚子は、当然小ぶりでスッと縦長、上三分の一ほどが細くしぼられて注ぎ口になる、その形が均衡がとれて、だから握りやすく、酒を注ぎやすく、注いで心地よいのです。

盃は朝顔型です。ごく薄くて浅いので、自然と親指と人差し指だけで支えることになり、その間からヒラリと酒を口に流しいれるしかありません。「ぐい呑みでちびちびやるなんぞ、野暮の極みじゃよ」と言いたくなるようなこの盃なのです。

すでに時効になっているでしょうから打ち明ければ、ずいぶん昔、今は亡き先輩に二階の座敷でご馳走になったとき、酔いに乗じて使っていた盃を持ち帰ってしまいました。ところが惜しいことに、何度か引っ越すうちに、今はありません。各地で古道具屋を回るたびにこの手のものを探すのですが、まだ出会えません。お店に行くしかないということですね。「使った箸を持ち帰りたいけどいいですかね?」と、こちらと同年輩の姐さんに尋ねたら、新しい割り箸を下さったのですが……盃は、無理ですよね(笑。

食べ終え、手洗いに行って戻ると、卓は薬味箱も鍋も下げられ、空の調子と盃、そして箸の他に、お茶が淹れられていました。ありがたいものです。安いものです、ホント。鍋1,800、酒(伏見の「ふり袖」700×2。これで一時間以上ネバっておりました。

やはり、老舗は大したものです。調理場の、ご当主でしょうか、鍋に泥鰌を並べ入れたり、卵をといて柳川に仕立てる作業を休みなしに続ける渋い顔立ちも味のうちです。

前便で「Korean 家族の相客のうち、可愛い娘さんにでれでれしてしまった」と申し上げた『三岩』はそのあとに回りました。

ーー今夜は遅い、というか、もう朝に近いので、この辺にしておきます。いずれまた!

(なお、今回は料理の写真はありません。煮ながら飲みながら撮れるワケないじゃん)

T. K. 生

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