文庫本買いの愉しみⅡ――里見真三著・飯窪敏彦写真『いい街すし紀行』(文春文庫 2009/1)

三省堂書店、平台の一角に極端にくぼんでいるところがあって、そこにこの文庫が二冊だけ残っていた。著者と写真の担当者の名を見て、直ちに求めることにした。『いい街すし紀行』。

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ふたりは1990年前後、文春文庫ビジュアル版で『ベストオブ・ラーメン』『ベストオブ・丼』ほかを手がけている。ラーメンや丼飯を真上から撮影する(丼が真円!)という画期的手法をとり、以後のグルメ本編集の祖となった。このビジュアル版シリーズには『東京B級グルメ』ほか『B級グルメの冒険』など多数出版されている。昔から普通にあるもの、目立たない食べ物、ゴチソウではないもの、下品な食べ物とされていた料理などを、へりくだりながら存在を主張する「B級料理」と呼ぶことは、ここから始まった。料理に貴賎はないということを日本中に根付かせた功績者である。

里見真三については、うかつにも最近になってその本格的著書が光文社から『恐ろしい味』『匂い立つ美味』『匂い立つ美味・もうひとつ』として出版されていることを知り、Amazon で購入した。

食べることにまつわって、彼の万般にわたる知識と経験を詰め込んだ掌編小説のかたちに仕上げた『恐ろしい味』は、小子のめざすところを示してくれ、貴重な書だ。「桜鯛の花見」では、ロンドンのホテルに泊まっているときに回想する鯛釣り名人との交流を七ページにわたって綴る。次の「胡同(フートン)の茶館」で入念に語られるのは、「変わった『春巻』だった。」の一行で始まる、北京の路地(胡同)の奥にある料理屋の様子。一行一節に味わいがあり、その文章の世界、食の世界にのめりこむことになる。

『匂い立つ美味』と続編『匂い立つ美味・もうひとつ』は、男性月刊誌『BRIO』(光文社)に99年5月から07年11月まで連載していたエッセイ。「ラム」「鮒鮨」「水」「納豆」など、この世で口にできるもの100食品について薀蓄を述べる。頭が疲れたときにページをめくって出てきたところを読んで一息つくのに最適だ。

今回の『いい街すし紀行』の表紙カバーを見ると、里見真三は1937年生まれで、なんと、2002年没とある。しらなかった。享年65ではないか。早すぎる。しかしその正真のグルメ(食通)、グルマン(食道楽・大食家)ぶりの然らしめるところだろうか。酒も煙草も存分に愉しんでいたはずだ。しかし、惜しい。いま一段上の、そして枯れた食通の言葉を読みたかった。

今回求めた『いい街すし紀行』は、里見が編集の基本に戻って、鮨屋で食するものとそれを出す料理人達について事細かに綴ったものと見える。料理を語るに当たっての言葉遣い、表現の方法。これも興味あるところだ。

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