寿司食いてェ――職人しごと

この春、今どき珍しく静かな食の探訪番組が始まった。「おまかせ」での握り寿司10貫をこしらえる過程をていねいにたどりながら、それを握る親方の仕事をさぐる。よけいな演出や設定なしに「寿司そのもの」の姿とこしらえ方が見られるので、放送を心待ちにしている。BS-TwellV の「早川光の最高に旨い寿司」。(日曜日の午後8時から。新作は隔週)

このたびは銀座「青木」。
画像


はじめ、骨切りした鱧(ハモ)の身を皮からこそげとったものをそのまま握ってしまったのには意表をつかれた。こういうのもアリなのか、寿司というもの。しかし、けっして突飛ではない、もちろん生粋の日本料理。親方、京都で職人をしていたことがあったそうな。夏の魚かと思ったら、すでに脂がのっているとのこと。その味わい、想像がつかない。京都四条河原町交差点裏の立ち飲み屋「たつみ」では、いつから鱧を出すだろう。落とし、といったっけ、茹で上げて冷やしたもの。あの店ならきっとある違いない。立ってしか鱧を食べられないのが侘しいけれど…。それにしても、鱧の生とは…。

つぎは春子(カスゴ)。鯛の稚魚。昔から伝わるもので、酢締めして握られる。いいなぁ、こういう寿司…。いかにも、寿司。飯との間にオボロ(白身魚をすって調味加熱し、そぼろ状にしたもの)を少しつまんで挟んでいた。これ、伝統のままのはず。ただ、親方は皮目に入れる切れ目を普通より深くして噛みやすくしているらしい。伝統にとらわれない工夫だろう。これをしのぶよすがとして若狭小浜の小鯛の笹漬けがあろうが、とても手が出ない…。(だんだんナサケナクなってくる)

そして、喉黒(ノドグロ)。これも酢締めしたものを握る。皮目を炙って。近年、関東地方でも高級魚とされて珍重されるが、何をもってそういうのか分らない。ウサン臭さを感じる。出荷数が少ないから? だとすれば、そんなものは論ずるに足らない。金持ちに食わせてやれ。味わい? 小鰯だって七回洗えば鯛の味というではないか。魚の味、物の味に貴賤はないのだ。何を言いたいかって? 「高級」なんて言い方にだまされないようにしたいってことで、これまた安酒飲みのヒガミというところ!(ちょっと興奮気味)

ここまで、続けて白身魚で来た。どうも、メリハリがないように見えるのだが、それぞれウマいことには違いないのだろう。できることならば、ゆっくりとヌル燗の酒をなめながら、時々すこしずつ握ってもらいたいものだが、このような店に入れるわけもなく、夢のまた夢のお話。

さて、続いて今度は海老が3貫続く。こうなると完全に酒の肴の世界に入ってしまう。「縞海老の昆布締め」「手長海老の炙り焼き」「さいまき海老の茹で」。

7貫目は鮪のヅケを握ったものを海苔でくるんで手渡し。ヅケ鮪は、味醂と醤油を煮切ったものに赤身を5分ほど漬けるのだと。

親方はそれを、手巻きを或る寿司屋で手渡しで出されたときに思いついたという。巻物は巻き立てを食べるにかぎる。海苔の香りと歯触りは、時間が経つほどに落ちるのは当たり前。このあいだ、東京下町の名もない寿司屋で1080円のサービス握り一人前を妻と分けあって食べたあと、好物の干瓢巻を追加して頼んだ。ところが、それがウマいっといって、あらかた食べられてしまったことがあった。海苔が香ばしいといって。

あとは煮物の握りが続く。

大ぶりの牡蠣を酒蒸ししたものの腹を裂いて寿司飯を仕込んだもの。牡蠣を煮詰めて作った「ツメ」を塗る。それを、食べやすいように二つに切り分けで出す。こうなると、ことに初めの鱧もそうだったが、素材の活きの良さが勝負どころになるか。素人はとうていかなわない。

煮蛤(ハマグリ)。言うまでもない伝統の寿司種。いいなぁ、こういう寿司。

最後は「青木」名物の蛸(タコ)の桜煮。これは、とくに旨そうだ。安心できる味、なのではないか。親方の父から伝わるものだが、教えられたよりも煮る時間を少し短くして、軟らかさを勝たせたという。同じことばかり繰り返すのが伝統ではないのだ。時代は変わり、人も変わる。古式の根幹と精神は守りながら、枝葉は時代に合わせて変えてゆかねば。
画像

こんど大阪に行ったら、おでん屋「たこ梅」に寄って、蛸の桜煮を食べよう。たしか、あの店でも桜煮と呼んでいたはず。何十年か前に、その店と知らずに、たぶん梅田の支店に入ったとき食べた蛸の足の醤油の味加減と歯触りは、今も忘れられない。東京銀座の「青木」になどとうてい入れないから…。

以上、この10貫の構成は、魚の身、海老、アクセントとして海苔巻をはさんで、締めとしてそれ以外の寿司種の煮物――ということになる。いずれも、今どきの寿司が魚をさばいただけの刺身を寿司飯の握りにのせたものであるのとは異なり、手間をかけた魚介類と寿司飯を合わせたもの。

親方が言うには、江戸前の寿司仕事とは、仕入れから仕込み、営業、そして手を抜かないものを客に提供することなのだと。

魚に仕事をした寿司が食べたい!

――と叫びながら、腹が空いてきたので、今日の晩飯は、残っている酢飯で干瓢の細巻きをこしらえて食べることにする。干瓢の煮物は、理想まではまだまだ遠いのだが…。



ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

面白い

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック