男の矜恃と二人の行方――「最後から二番目の恋 2012秋」あらまし

(大幅に季節遅れの起稿――放送は昨12年11月2日!――となりメンボクないのですが、ようやく録画を観る時間ができたので…)。あの番組が帰ってきた。千明(小泉今日子)と和平(中井貴一)の壮絶かつ痛快なセリフのやり取り。相手の存在と物言いをあからさまに否定しあうのを傍で聞く面白さ。千明をはじめとする、アラフィフに向かう女三人のワイン飲み会で遠慮なく出るオンナの本音。和平の妹たちと千明の、和やかだが真剣な、しかし温かい家族的なつながり。それら、観る者の心躍る場面――あ、もうひとつ、何より長倉家2男2女1娘の一家それぞれに個性豊かで楽しい食卓が、これでもかとばかりに視聴者にサービスされる。

さて、今次スペシャル版の主題は、仕事の道具として情を交わしてよいか(古い言い方!)ということ。

鎌倉市の観光課長・和平は、市の世界遺産親善大使を小説家の向坂緑子(萬田久子)に引き承けてもらうよう、元部下であった、いけすかない部長に命ぜられ、なりふり構わず熱と誠をこめたメールを送ったところ、これが奏功して翌朝、緑子から思いがけない好い返事を得た。「長倉さんにお会いしたくなって」と。「昔の日本映画に出てくる男性みたい」。

しかし、彼女は夫と死別。その後、「一度もしてないの。しませんか」と、こともなげに和平に言う。ちょうどいい人。若くてかわいい男の子だと恥ずかしいし、別れられなくなるほどの男だと困る。でも、誰でもいいというわけでもなくて……。平凡な、しかし、悪くはない和平に、相手になってほしいのだと。それが大使を引き受ける条件ともいえた。

和平は戸惑い、悩む。倫理観。仕事のためにここまでしなくてはならないのか。「仕事のために体を売る」。和平だって嫌ではない。できる。しろと言われれば。なんの問題もなく、むしろラッキーだ。美人だし、スタイルはいいし……。

しかし、ひっかかるのは、断られ続けた親善大使を引き受けてもらったという手柄を、忌々しい上司に横取りされることだった。

甘い申し出は断った。「意気地なし」と言い捨てられたが――。

「大切な人のためにとっておきたいんです」と言って。わたしも51になろうとしている。妻と死別して長い。この先、女性とそんな関係になることはほとんどないだろう。だからこそ、と。

これを「矜恃」といわずして何といおうか。ブログ子などとてもマネできない(その場になったらわからないけど…)。ま、現状では足下にも及ばない。

「古い」のだろう、緑子の言うように。和平の言うように「古臭く」はない。だから、正しい。今年初めの流行り言葉のように、「ならぬことはならぬ」のである。「意気地なし」といわれようと。

ここで思い起せば、漱石の三四郎は福岡から上京の途中に名古屋で、頼まれて共に泊まった女と「梅の四番」の間の同じ布団に寝なければならぬ羽目になったが、広い布団の中間に、舞田敷布で仕切りをつけてそれを越えず、抑えて寝た翌朝、女に、「あなたは余っ程度胸のない方ですね」と言われて耳を火照らせていた。

三四郎は三四郎として、和平のこの姿勢は、そうとうにカッコイイ。女房に死なれて長い間、堅く独り身を通してきた。愚直と言えば愚直だろうが、男の姿として潔いことはたしかだろう。

千明は千明で、仕事の事情で脚本家に媚を売ることを和平の妹・万理子(内田有紀)に仕掛けていたが、弱々しくも固く拒まれ、良心の呵責にさいなまれていた。今度プロデュースを担当することになったサスペンスとは、いままでのトレンディードラマと違って、単純に、人を傷つけてはいけない、盗んではいけない。そうすれば必ず罰せられるのだということを納得する。

男女の仲とて同じこと、相手の心を、身体を、生半可にもてあそぶことはならない。

和平が皆に今回の苦しい事情を打ち明けた後の出勤時、江ノ電・極楽寺駅の前で千明が和平を待ちうけていた。「サボリません? 仕事」。

鎌倉の各所を遊びまわる一日。最後に出てきた食堂兼居酒屋は、鎌倉の実際の店らしかったが、薄暗さと板壁の古び加減、雑然とした品書きの張り紙が良かった。餃子を持ってきたはその店のおばさんだろう。日本酒の四合瓶が二人の間でうまく働いていた。いかにも美味そうで、いい小道具になっていて。
 
そこから帰って和平は、弟の真平(坂口憲二)に千明のことをどう思っているか聞かれ、
「大事に思っている。恋愛になると壊れちゃうことがあるだろ。そして一緒にいられなくなる、それがいやだ」と心中を明かす。ケンカするほど仲がいい。

いっぽう千明は和平のことを、
「すでに老夫婦のようなもの。この先(結婚する相手が)現れなかったら、一緒になるのもアリかな」と、はじめて間柄を語る。保険みたいなもの、という独身の自由さがある。

さて後日、和平が緑子に「大切な人のためにとっておきたい」と言ったその場に、何と、千明は偶然居合わせており、やりとりを聴いていた。「大切な人……」。

千明は言う。
「『いくじなし』。素敵じゃないですか。素敵、でした。わたしも大切にしたいと思いました」

「……あのう――」と和平。
「いいですよ……」

はじめて心が通じて、ホテルを探すふたりだが、行き着くところすべて満室。しかも、あきらめて帰る道は大渋滞、というお笑いで、ドラマは終いに近い。

翌朝、和平の誕生ケーキには51本の蝋燭が立てられていた。緑子が和平の意気に感じてか、申し出に応じたと連絡も入り、千明の特番サスペンスもいい数字をとったとのハッピー家族で、大団円。

いずれ続編が作られることを期待したい。人物一人一人が際立った役柄で、その絡み合いも冒頭のとおり。このままで終わってしまうのは、いかにも惜しい。





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