ゴールデン・ボンバー 2――グラス酒、最初の一口

いっぱんに、受け皿にこぼれた酒をどのように扱うかで、呑み手の酒品(なんて言葉はないか)が問われる。

いちばん格好がいいのは、グラスに表面張力ギリギリで安定が保たれているところを一口すすってその面を治め、間をおかずに左手で受け皿を取り、あふれた酒を飲み切り、そこにグラスを戻すことだ。しかし、この一気飲みは、常人にはチトきつい。無理やり飲んでいると見られては大失敗だ。

逆にもっとも格好悪いのは、受け皿にある酒の存在を無視して、グラスを揚げ、戻すことを繰り返すことだろう。その度ごとにびちゃびちゃと音を立てて。“こぼれ酒”は、はずかしめられ、意気を失い、憐れなことこの上ない存在に成り果てる。最も恥ずべき行為で、こんなことをするヤツは酒飲みの風上に置けない。

――なに、大したことではない。しかし、この一事は、呑み手としての美意識をいかに持つかにつながるのだ。――

さて、ここに便法がある。グラスを受け皿からとりあげて一口飲んだら、皿に戻さず、肴の皿――汚れていない点において、漬物が好もしい――に置くのである。その意味で、漬物は、入店後最初に注文する下町ハイボールとともに頼んでおくのが正しい。

こうすれば、受け皿酒の一気飲みはしなくてすみ、グラスが、酒の張られた受け皿に出戻ることなくて、万事めでたくおさまるというワケだ。

もっとも、日本酒の場合、受け皿の酒の量にもよるが、グラスのほうを一口やって、空いたところに皿の酒を注ぎいれることができる。量によっては、“グラスの出戻り”を一二回することになるだろう。が、常識人としてのこの振舞いは、(知らないけれど)礼法に適っているのではないか……。

さて、ボンバーにおいては、どういう呑み方になるであろうかというと、梅エキスが多く流れた受け皿の融けかかったところをチョッとすすっては、グラスに重なった、かき氷様のサクサク焼酎を上唇で削り取り、融ける具合を口全体で味わうことになる。金宮焼酎そのものの澄み切った飲口。噛める焼酎。しかし、のんびりしてはいられない。グラスの氷が解けたら、あふれるに決まっているので、それとなく急ぎ目に、山盛り部分は、かじりとらねばならない。

昔日、桜木町野毛の飲み屋街に〔波の上〕という間口一間、奥行き二間の、泡盛を出す店があって、それを注ぐのが〔もつ〕のボンバーのグラスとピタリ同じだった。受け皿なんてお上品なものは使わず、カウンター上の仕切り台にグラスがトンと置かれて、なみなみと泡盛が注がれる。こぼれるのを恐れ、もったいないとするなら、席を半ば立ち、口を杯に持っていってすすることになるが、このへっぴり腰がみっともないと思えば、酒がこぼれるのを厭わず、慎重に杯を手でつかんで自分の前に持ってきてから口をつけるのであった。このとき、後者のほうが、どちらかというと品良く、男らしいと思えないだろうか。(どうでもいいことだけれど…)

――そんな行為の連続として酒を独りで飲むのは、たぶん、難しい。その辺の事情は、いずれまた記すことにしよう。






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