コトバのチカラ――TBS「運命の人」第4回

「ひそかに情を通じ、これを利用して」と記された東京地検特捜部の起訴状における一句が、事件を根底から覆した。

沖縄返還時の日米密約(アメリカが地権者に支払う土地現状復旧費用400万ドルにつき、日本政府がアメリカの肩代わりをする)を示す資料を、毎日新聞記者が外務省女性事務官から手に入れた。「密約の存在」を糾弾する記事を書き続けたが、政府は揺らがない。情報源を明らかにできないのは新聞記者の心得の第一歩。たかが根拠の明かされていない新聞記事に動いてなるものか、と。

この番組の中では、ある夜、自然に情を交わすこととなった記者に、事務官が機密文書の写しを、「未来を変えてください」と渡したことから、重苦しいい事件が展開する。報道の存在意義が問われ、新聞記者の使命と政府関係者の義務、そして、そこにからむ男女の関係が描かれる。

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記者は「密約」があること自体を悪と考え論陣を張った。言論は、また真実は世を変えられる、変えねばならないと熱く信じ、昼夜身をささげている。したがって、それを基に政局を左右する意思は持たなかった。その姿勢が彼を破滅に導く。

事態が進まない中、野党政治家が彼に接近し、言葉巧みに記者の心を動かし、機密文書の写しを手に入れた。取り返しのつかぬことをしてしまった。

記者との約束を破り、国会の予算委員会でそれを示した社会党は、政府を追及する。政府は文書の出所を捜査してつきとめ、女性事務官と記者を国家公務員法違反で逮捕した。
情報源が明らかになったことを詫びる記者に、事務官は言う。
「未来は変えられません」
「そんなことはないさ」
「あなたも私も何も変えられていないではないですか」

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――国家存立の現実に直面して、記者気質(かたぎ)の甘さをなじる事務官。気がついても遅い。

マスコミ各紙は「知る権利」を振りかざして彼を擁護し、政府を批判する。が、時の首相は言う。「国家機密は国民の知る権利に優先する。国家機密なくして外交はありえない」。

冒頭、訴状の一句は、まことに巧みで、重い。理を情で逆転させた。

「密約の存在」そのものを追求したことに対して、政府側は問題をすりかえ、資料の入手方法に違法性を見いだし、すかさずそこを突いた。「論理」をもって攻めたてていた者が「倫理」を理由に存在を否定されたのである。

記者の志は、かき消され、国家機密が保たれる。

原作者山崎豊子は記者に肩入れしてこの小説を書いたのであろうか。いや、そのように単純なものではないだろう。人間の複雑さと単純さを膨大な資料を基に重層的に描いたものに違いない。百パーセントの善人も悪人もありはしないわけで。

参考:
ブログ「ふで漫歩」:『運命の人』第二話 密約朗詠の波紋
http://katomi.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-5554-3.html
ブログ「芸能問題総合研究所JOURNAL」:『運命の人』感想・「情を通じて」
http://eriteru.hamazo.tv/e1750952.html




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