バチあたりめ!――「空海と密教美術」を訪ねる 1

両界曼荼羅図の写真、額に入れる大きさのものを電車に置き忘れてしまった。夜もまだ早い八時過ぎ。ウカツ! 長年機会をうかがって、きょう、せっかく手に入れた仏様の御すがたを……。

夕方の会飲までに余裕を持って、正午前に東京国立博物館を訪ねた。「空海と密教美術展」。観たかったのは書と曼荼羅図。仏像には興味がない。空海が書いた物のありさまに触れたかった。そして「ほんものの曼荼羅を観たら、この身も何か変わるかもしれない……」と、はかない期待を抱いていた。

展示を観終わって、まだ三時間ほども間があいていた。ひさしぶりにアメ横沿いのガード下居酒屋をひやかすことにしたのが間違いの始まり。このところ休肝日が週三日の優等生――じゃないか、ふつうのノンベエ――は、以前の呑み助に豹変していた。

いつもオッサンたちでいっぱいのガード下ヤキトリ屋の奥が空いていたので、ふだん飲み屋では荷物は自席の幅におさめているところ、ゼイタクして、左の席に曼荼羅図の入ったビニール袋とカバンを置いた。ミミッチイ豊かな気分。カシラのタレ焼き二本と白菜の漬物でレモンサワー三杯。ただし二杯目からは「中身」の焼酎だけを注文する。「サワー飲料」を別瓶で出してくれるので、こんなことができる。貧乏労働者の味方! 周りの客はみな無口。東北出身の善人が多いとみえる。店の呼び込みの声ばかりが大きい。煮込みを頼んで「豆腐だけ」というと、皿からあふれんばかりの豆腐四切れをのせてくれる。しばらくして右隣にやってきた爺さんは、「豆腐と煮込み半分ずつ」。これだと豆腐二切れと煮込みだ。次回はこれを注文することにした。

約束の時間までは、御徒町から渋谷までの所要時間を考えても、まだ一時間ある。

思案の末、前夜も立ち寄った恵比寿のヤキトリ〔たつや〕で大根・キュウリ・にんじんのお新香と軽く一杯だけやっていくことにした。

渋谷のビル9階にある、約束の懐石料理店に定刻前に着き、先輩たちと、いつもより上機嫌で芋焼酎の水割りを飲んでいた。その末、電車に座ってしまったのが致命傷だった。四人掛けのボックス席の奥、窓ぎわに曼荼羅図の袋を置いたまま寝込んでしまい、当然乗り過ごし、逆方面への帰りもまた乗り過ごし、そこで袋を持っていないことに気がついた。

――翌朝になって電話で東急の忘れ物担当に電話したが、とうてい出てくるわけもない。

どなたかがあのまま持ち帰って、仏様にふれる機会ができたなら、それでよいと思って諦めた。

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