秋吉久美子のアッケラカン道中――初秋の日光を行く

凡百の旅番組の中で、このほど出会った「いい旅・夢気分スペシャル 紅葉最前線と癒しの秘湯 栃木・日光編」は秋吉久美子の案内だった。同世代で親近感を持てる女優としてみている小ブログ子として、ことに面白く、彼女のあり方をあらためて知ることとなった。

画像


同世代? 安保闘争がついえて新たな目的をもとめて求め得ず、さまよう70年代に二十歳代をおくった若者を演じてくれた人といえようか。日活映画「赤ちょうちん」、「妹」(いずれも1974年)は、ロマンポルノ全盛の時代、まことに珍しく“普通”の映画だった。先輩である団塊の世代が抱いていたような社会に対する情熱なく、同志との連帯(フルイ!)なく、さりとて、次の代の情報新人類のようなワリキッタ生き方もできない世代。その後の活躍は知らないが、まだ芸能界で確固とした位置にあるだろうことは察している。

――なんか、ハナシがとんでもない方に行きそうだ。ようするに、秋吉久美子が昔からの秋吉で、その個人的魅力が100パーセント出ていたことで、出色の旅行記だったと言いたかったので。

芸能界にうとい中年には名前もわからない男や女、夫婦や親子が歩き回る旅には、「おいしいー」「ワー、きれい」の連発で食傷している。ありきたりの番組制作と、わざとらしく感動する旅人たち。

この点、秋吉は得がたい旅先案内人といえた。素直――というより根っからのナマな(天然というのか、いまは)性格と表情で目に映った風物や出会った人間にあたり、心を開けひろげたままに素直に訊き、感心し、かざらない言葉遣いで相手とそれを観る我々を旅の空間に惹きこんでしまう。自然に語る声音、動き、表情は彼女独特のものでみずみずしく、ともすれば平板に流れる旅行番組を軽いドラマのように見せてしまうのだ。(ホメすぎかな)

画像


奥日光の山道を、日光の町を、カッコわるく両手をポケットに突っ込んで歩く彼女。ふてくされるということが性根になってしまっている、しょうがないやつ……。バスで隣り合った人について急にバスを降りてしまって、日光の穴場と言われる草原に立ち寄る。

画像


ホテルの若女将の「……をお楽しみください」という説明をききながら料理を口にし、じっと女将の目を見たのち、「楽しんでますよ」と、口をとんがらせるようにして応える。その間(ま)の不自然で、しかし彼女にとっては自然であることの不思議さをなんと言おう。よけいなことながら、浴衣姿があだっぽくてよかった。また翌朝は散歩に出て、向こうから歩いてくる男性に「おはようございます」と自然に声をかけてすれ違い、「出勤でした」と、なかば恥じるように気の抜けた物言いをする。実存的――と、古い言葉がふと浮かぶ。つづいての朝食時には、女将の亜季さんに前夜の湯加減について「とーっても身体が温まるの」とあらためて驚いている様子が明るい。いったい何を言いだすか分からない女。

日光山内に入り「この階段を上ると、どこにたどりつくのかなー。何百年も続いた階段なんですよね。子供のころきたはずなんだけど、こんな歩いた記憶がないから、バスでボンと着けるところに着いたのかな……。」という何でもない独り言を語りつづけた。東照宮神厩舎で真っ白の御神馬が行くのをみて、「また妄想が湧いてきて、あの馬に乗って天を駆けるんだとか」と突然にしゃべりだす。

そして“しそまきとうがらし”を商う店に立ち寄ってはその唐辛子を見て、なぜか「かっこいい」と評し、店の奥でそれを作っているおばあさんたちに巻き方を教えてもらい、「二本入れちゃいけないんですか?」だの、「赤ちゃんの頃から巻いていたんですか」などと突飛なことを、初対面の人たちとあけすけに、分け隔てなく話し、巻き上がった唐辛子の三分の一ほどをを突然かじって食べ、「ショッパイ!」。それは刻んで食べるんですよと言われても、すでに遅い。つづけてまた「ショッパイ!」。ほんとうに、しょっぱそう。それはそうだろう。

最後も彼女らしい。訪れた寺、慈雲寺で知った或る真言の最後の梵字が“カンマン”であることから、「かーんまん」とカメラに背を向け、手を振る。

画像


久しぶりに出会った秋吉久美子は、昔とぜんぜん変わっていなかった。芸能界に入ったのがたぶん16歳くらい。以来35年ほど。油断もすきもならないその業界にあり続けるのは大変なことだったろう。結婚したことがあるのかどうかも知らない(――そんなことはどうでもいい)が、その性格と振る舞いはこの先も変わらないと見える。ガンバレ、久美子。


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

面白い
ガッツ(がんばれ!)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 秋吉久美子、熊野に詣でる

    Excerpt: その名はいつも小子青春の頃の気だるさと物憂さを呼びおこす。日活映画「妹」「赤ちょうちん」。奔放で無邪気な、妹とも恋人ともいえる存在として、勝手に見立てていた。恥ずかしげもなく半裸の姿をさらすときの、兄.. Weblog: 一日一夜 racked: 2011-12-11 10:48